2024年2月4日,広東省化粧品科学技術研究会*が5月1日以降の化粧品申請時の安全評価報告書(完全版)移行後も「既使用化粧品原料目録*(以下「既使用原料目録」)」の過去最高実績使用量を安全性の根拠として使用できるように求める提言を公表

* 広東省化粧品科学技術研究会(英語略称:GDICST):省レベルの学術公益社会組織で、学識経験者、化粧品科学技術研究に従事する技術従事者、大手化粧品企業の研究開発担当者が共同で発起し、広東省民政部の認可を得て2016年1月に正式に設立された。https://www.gdicst.com/

* 既使用化粧品原料目録(IECIC:Inventory of Existing Cosmetic Ingredients in China):中国で化粧品成分として使用実績がある成分リスト。最新版は2021年に公表され、約9,000成分が収載されている。

目次

背景

中国における化粧品製品申請では、2021年1月より施行された化粧品監督管理条例(及び、関連法規定)に基づき申請時に化粧品安全評価報告書の提出が要求されています。化粧品安全評価報告書は化粧品安全性評価技術ガイドラインに基づき、施行から本年4月30日までに申請する場合は「簡易版」を提出すれば良く、5月1日以降申請するものについては「完全版」の提出が義務付けられています。

「簡易版」から「完全版」に移行することにより製品申請のハードルが大きく上がるため、日本企業にとって5月1日の移行が規定通り行われるかは重大な関心事です。

「簡易版」から「完全版」の移行により生じる追加要求

(製品の安全性評価)

製品に配合されている全ての成分(原料)の安全性を海外の国際機関の評価レポートや学術文献等で評価する必要がある。

→ 「簡易版」では、既使用原料目録に収載されている過去最高実績使用量の数値(中国国内で市場販売された化粧品に対象となる成分(原料)が配合された実績数値)を安全性の根拠とできるが、「完全版」では過去の実績数値が認められなくなる。

→「簡易版」では、登録者・登記者が既に中国で3年以上販売している同一の使用方法の製品中の成分濃度が評価の根拠として認められていが、これも「完全版」で認められなくなる。

(追加で要求される資料)

「簡易版」では不要だった以下の資料が「完全版」では追加で要求される。

製品の安定性試験報告書

保存効力試験(チャレンジテスト)報告書

製品の包装材の適合性試験報告書

広東省化粧品科学技術研究協会 2024年2月4日の提言

安全性の根拠として「既使用原料目録」の最高実績使用量を継続使用することを提言します。

また、将来的には「既使用原料目録」の過去最高実績使用量にCIR/SCCSによる評価結論を組み合わせ、新版「既使用原料目録」へ刷新して「化粧品安全評価報告<完全版>」の作成に協力していきたいと考えています。
さらに、欧州のECHA等のデータを組み合わせた中国独自の毒理学情報プラットフォームも立ち上げるよう構想しています。

以下、提言の「総括」部分の日本語翻訳です。(WWIP翻訳 / 提言の最後、まとめ部分)

総 括

「既使用原料目録」は、中国の化粧品安全管理の過程において常に重要な役割を果たしており、中国の化粧品安全評価者が規則に基づいた化粧品評価をすることができ、化粧品の安全評価という新しい政策の執行が可能になりました。
同時に、「既使用原料目録」の更新も急務です。
新たな規制条件の下で、より包括的な目標を達成し、より良い生活を求める人々の高まる需要を満たすためには、「既使用原料目録」がより指導的で、より完全な機能を持つことが必要であり、長期的な経験と蓄積を体系化するだけでなく、世界の優れた成果をタイムリーに取り入れることで、中国の産業が迅速かつ良好な方法で質の高い発展を達成できるようにする必要があります。
(中国の化粧品)産業の発展の現段階において、企業と規制当局の関連人材予備力、科学の発展の基礎をもって、私たちがより円滑に完全な化粧品安全性評価を着実に実施するためには、シンプルで明確な「既使用原料目録」を継続的に維持する必要があります。

30年以上(中国国内で)、数億人の消費者に使用された「既使用原料目録」の過去最高実績使用量を、安全性評価完全版のエビデンスとして維持し、並行して関連技術標準の改善を継続するも併せ、製品の品質と安全性の評価方法を基本的に継続維持することを提案します。

同時に、中国が特徴と優位性を持つ植物由来原料に関する安全性評価ガイドラインを策定し、関連する先進的かつ科学的な代替試験・評価方法を導入し、安全性評価作業が円滑に行われるようにすることも、現在最も緊急、最も保守的かつ重要な課題です。

全文は以下の通り(中国語原文)

出典:「安全性評価の証拠として「使用済み化粧品原料目録」に過去最高使用量を保持することの提言」

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WWIPコメント

日本企業にとって2024年5月1日から施行される予定の「完全版」への移行は非常に大きな問題です。

実際に多くの日本企業が「完全版」への移行予定の2024年5月1日前までに化粧品製品申請を完了させることを目指しており、以後の申請については、「完全版」への移行後、その状況を見極めた上で対応を考えるという姿勢です。

従来から、中国国内でも「完全版」への移行について、対応ができないとの意見が大勢を占めていました。一部では「完全版」の要求内容が緩和されるのではないか、移行時期が先送りされるのではないか、といった観測がでていましたが、ここにきて「完全版」への移行が予定通り行われることを前提に、要求にどのように応えていくかを模索する流れになっています。そのような中、今回の広東省化粧品科学技術研究会の提言は、移行を3ヶ月後に控えた現時点においても、化粧品に関わる企業、有識者が「完全版」がこのまま移行された場合、その要求に対応できないことをあらためて表明したものとして注目すべきものです。

また、提言では、過去最高実績使用量を評価の根拠として今後も継続して使用できるようにするという点に絞った具体的な対策を示しています。

今後、中国当局はこうした声にどのように応えるのか、現状を鑑みれば何も対策を打たないということはない、何らかの対策、緩和措置を講じるのではないかと思われるのですが、対策が講じられるか、講じられる場合、それはいつ頃で、どのような措置となるのかが焦点です。

昨年9月の原料情報登録のルールが朝令暮改された例をひくまでもなく、中国当局はルールが施行された後の状況を踏まえてある意味柔軟にルールを変更することがあります。

しかし、当局の対策、緩和措置を待つだけでは、中国という大きな市場への新規製品の投入計画を立てることができません。そのため、当局が対策や緩和措置をとらない可能性も含め、現時点で、「完全版」移行後の申請において、対応できること、できないこと、安全性を示すことができる成分、できない成分といった基本的な状況把握を行っておくべきであると考えます。

<本件に関するお問い合わせ>
株式会社WWIPコンサルティングジャパン
TEL : 03-6206-1723
Email: official@wwip.co.jp

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