国家知的財産局の昇格及び商標法の改正案について
中国全国人民代表大会第14回会議第2回全体会議が2023年3月7日に開催され、国務院の機構改革案が審議されました。この改革案には、知的財産管理体制の改善に関する重要な内容が含まれています。
http://www.gov.cn/xinwen/2023-03/08/content_5745505.htm
具体的には、国家知的財産局の管轄権限を国家市場監督管理総局から国務院直属の機関へ移行するよう提案されました。この提案は、知的財産管理体制の改善を目的としており、管轄権限を移行した場合、特許や商標の権利確定作業は国家知的財産局が責任を持つことになります。一方で、取締り業務は市場監督部門が引き続き担当することになります。
この改革計画は、2つの部門の職務範囲を明確にすることで、知的財産権の保護を全体的に強化することを目的としています。また、今年1月13日に公表された「中華人民共和国商標法改正案(意見募集案)」により、商標保護の範囲が拡大されることが発表されました。弊社では、中国政府からの公式発表や関連報道をもとに、以下の通り意見募集案の内容をまとめました。
商標法改正案(意見募集案)の注目すべきポイント(一部抜粋)
現行の商標法の修正草案(意見募集稿)は、法律の関連原則に従って修正され、最終的に全国人民代表大会に提出され、審議および批准された後に施行される必要があります。このため、複数回の改正が必要となります(施行までには約3〜5年かかると予想されています)。また、法律は、過去に行われた行為に遡及的に適用されないため、公布された時点よりも前に行われた行為には適用されません。
現時点においては、本修正草案が日本企業の中国に関連する事業に具体的にどのような影響を及ぼすかは判断が困難であるものの、以下の2つの例から、中国政府が商標出願の管理監督を強化していることが明らかになっています。
(仮訳)第十四条【登録の条件】において、出願する商標は、識別力を有し、容易に識別でき、公序良俗に反せず、かつ、他人の適法な在先権利又は利益と相反しないものでなければならない。別段の定めがない限り、同一の出願人は、同一の商品又は役務について、同一の商標を一件のみ登録するものとされます。
(仮訳)第二十一条【重複登録の禁止】において、出願される商標は、同一の商品について出願人が先行して出願された商標、既に登録された商標、または出願日の1年前に公告により取消・抹消・無効宣告とされた在先商標と同一であってはなりません。ただし、次の場合または出願人が元の登録商標を取り下げることに同意した場合を除きます。(以下省略)
その他のポイント
・商標法の改正案により、商標の多様な形式が認められるようになりました。これには、色彩組合せや動画商標などが含まれます。これにより、商標の多様性が増し、商標保護がより広範囲にわたることが期待されます。
・商標使用要件が強化され、商標の適切な使用が規定されました。商標の適切な使用には、商標出願者が商品や役務に対して商標を使用することが含まれます。 この改正案により、商標登録者が商標を適切に使用するよう促進され、商標侵害の予防につながることが期待されます。
・商標の保護範囲が広がることで、商標を侵害する行為への対処がより厳格になることが予想されます。また、商標の多様な形式が認められることで、独創的な商標の活用が促進されるとともに、商標登録の公正性と透明性が向上することが期待されます。
まとめ
一方、今回の知的財産管理体制の改革で国家知的財産局の管轄が昇格することにより、「特許及び商標の権利確定作業は国家知的財産局」「取締りは市場監督管理局」と2つの部門の職務範囲が明確になることで、知的財産権の保護が全体的に強化されることが期待されます。
以上のように、今回の商標法の改正と知的財産管理体制の改革は、中国の知的財産保護環境の改善につながるものであり、企業や個人の知的財産権の保護をより確実なものにすることが期待されます。ただし、前回2019年に中国商標法が改正された際にも冒認(他人の商標と知っていて先に商標取得しようとする行為)を防ぐための規定が盛り込まれましたが、弊社には冒認が大きく減った感覚がありません。よって、中国政府が知財保護の対策を強化することは大変良いニュースではあるものの、自社のブランドは自社で守るという意識をもって、油断せず対策に取り組むことが重要であると考えます。
今後も中国の知的財産の変革をモニタリングし、関連情報をお知らせしていきます。
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