WWIP中国法考察:「中国での契約無効と社会公共の利益」

株式会社ワールドワイド・アイピー・コンサルティングジャパン (WWIP : 東京都港区) は、中国法考察と題して、「中国での契約無効と社会公共の利益」に関するレポートを本年8月7日に発表しました。(筆:WWIP中国法顧問 高橋孝治)
(以下、全文)


契約とは、複数の意思表示の合致によって成立する法律行為をいいます。日本では契約は原則として当事者間の合意で成立するものなので、錯誤(勘違い)によって契約をしたなどの事情がない限りは一方的に契約の無効を主張することはできません。ところが中華人民共和国(以下「中国」という)では、契約が無効となる場合に、国家の利益や第三者の利益を害した場合、公共の利益に害を与えた場合という要件があります。
中国では、「民法」という法律は存在せず、物権法、不法行為法(中国語原文は「侵権責任法」)などの日本でいう民法の一部について規定している個別の法律を寄せ集めて民法的な法律を構成していました(もっとも、民法典が存在しないことは問題であると指摘され、現在の中国は民法を制定すべく、その第一弾として民法の総則編に相当する「民法総則」という法律が2017年3月15日に公布され、同年10月1日より施行されています)。

さて、中国で契約を規定する法律は契約法(中国語原文は「合同法」。1999年3月15日公布、同年10月1日施行)です。この契約法第52条は以下のように規定しています。

中国契約法第52条
以下の一つに該当する場合、契約は無効とする。
(一)一方が詐欺、強迫の手段を用いて契約を締結し、国家の利益に損害を与えた場合
(二)悪意の通謀により、国家、集団もしくは第三者の利益に損害を与えた場合
(三)契約の形式をもって、非法の目的を隠している場合
(四)社会公共の利益に損害を与える場合
(五)法律や行政法規の強行規定に違反している場合

なお、無効は取消とは異なり、意思表示をした者が何らの手続をとることなく、「最初から効力を持たない」という意味です。これに対し、取消の場合は、「この契約は取消す」という意思表示が必要になってきます。
さて、中国では詐欺や強迫の手段もしくは人が困っている状態に付け込んで相手方の真意に背いた状態で契約を締結し、損害を被った場合、人民法院(裁判所)または仲裁機関に変更または取消を請求する権利を有すると(中国契約法第54条第2項)、日本では詐欺または強迫による意思表示は取り消すことができる(日本民法第96条第1項)と規定されています。
ここでお分かりの通り、日本も中国も詐欺や強迫によって締結した契約は取消すことが可能なのですが、中国の場合、詐欺や強迫により、そしてさらに「国家の利益に損害を与えた場合」という要件を満たすと、「取消できる契約」ではなく「無効な契約」になってしまうのです。その他、社会公共の利益に損害を与える契約も無効とされます。

これは、中国をはじめとする社会主義国家の国家観の表れと言えます。通常、民主主義国家では人がいて、その人たちが寄り集まって国家ができると考えます(なので、その人たちが互選した人が国家を運営する為政者となります(いわゆる民主主義))。これに対して、社会主義国家は、まず国家や社会があってその中で人々が生きていると考えます。このため、人が国家や社会に害をなすことは許されないという理屈が成立します。このため、中国の契約法では国家や社会などに害を与える契約が一律に無効とされるのです。

さて、この社会公共の利益に損害を与える契約とは、非常に漠然としています。しかし、中国の裁判では、集団で路上パフォーマンスをするという約束をしていた人たちに対して、路上パフォーマンスをすると車が通行することができず、経済的損失が非常に大きいとして、この集団の路上パフォーマンスをするという約束を契約法第52条(四)を根拠に無効とした例や、低所得者向けに低額で貸し出されている住宅を購入することは低所得者の権利を害し、ひいては社会公共のために作られた低所得者向け住宅を適切に低所得者に使用させることができなくなるとして契約法第52条(四)を根拠に住宅の購入契約を無効とした例などがあります。


■ 筆者 ■
WWIP中国法顧問 高橋 孝治(たかはし こうじ)
株式会社WWIP コンサルティングジャパン 中国法顧問

日本で修士課程修了後、中国法の魅力に取りつかれ、
都内社労士事務所を退職し渡中。
中国政法⼤学 刑事司法学院 博⼠課程修了(法学博⼠)研究領域:中国法。
行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル⼠」。初の外国⼈合格)。

著書に、『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015 年)、 『⽇本學(第⼆⼗輯)』(共著・北京⼤学⽇本研究中⼼(編)、世界知識出版社、2018年)、『中国年鑑2019』(共著・中国研究所(編)、明石書店、2019年)など。
『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて「高橋孝治の中国法教室」連載中。 日本テレビ「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送)では中国商標法についてコメントもした。


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